Overview
現代の医療分野ではデータの利活用が依然として進んでいないという課題があります。医療機関が管理しているデータを「個人がその価値を認識し、利活用できるデータ」へと変換する取り組みとして、従来独立していたレンタル可能NFT技術と譲渡不可NFT技術を統合し、個人主権型の医療データ流通システムを独自に開発しました。具体的な実装に成功した事例はこれまで存在せず、多くの技術的・運用的な課題に対してゼロから取り組みました。
背景と課題
医療データは本来、個人にとって最も価値の高い情報の一つです。しかし現状では、そのデータの管理・流通は医療機関側に集中しており、個人は自分のデータの価値を認識・活用する機会がほとんどありません。一方で保険会社や研究機関などのデータ利用者は、真正な健診データへのアクセスを必要としていますが、プライバシーやコンプライアンス上の懸念から活用が困難でした。
ステークホルダーと提供価値
健診受診者
個人主権の実現
報酬・インセンティブの獲得、個人主権のアクセス制御により自分のデータを管理。どの項目をいつまで公開するかを自ら決定できます。
企業・研究機関
データ品質とコンプライアンス
真正な健診データへの迅速で確実なアクセスが可能に。データ利用範囲の透明性によりコンプライアンスを確保。
病院・クリニック
収益モデルの多様化
患者との信頼関係維持と「コト」売りで収益の拡大。正確な健診データの作成・提供により新たなビジネスモデルを展開。
NFTを用いたアクセス制御の仕組み
本システムの核心は、「レンタル可能で譲渡不可な個人に紐づいたNFT」です。健診データのURLをNFT化し、そのNFTのレンタル権限のみを保険会社に貸し出します。NFTの所有権自体はデータ保有者(個人)に固定され、第三者への譲渡は不可能です。データ利用者(保険会社)はNFTを借りている期間のみ、対応するVC(健診データ)へのアクセスが可能となります。部外者はブロックチェーンによって完全にアクセスを遮断されます。
技術的な実装
- 1レンタル可能NFTと譲渡不可NFT(Soulbound Token)の規格を統合し、両機能を兼ね備えた新しいスマートコントラクトを実装
- 2Verifiable Credential Data Modelの仕様に基づき、「Blockcerts」を用いてVC(健診データの証明書)発行システムを構築
- 3健診データのレンタルを通じて、トークンをデータ利用者からデータ保有者に自動送付するスマートコントラクトの設計・開発
- 4DID(分散型識別子)を活用し、個人のデジタルアイデンティティとデータアクセス権限を紐付ける仕組みを実現
- 5スマートコントラクトによる利用期間の自動管理と、期限切れ時のアクセス失効機能を実装
SBT(Soulbound Token)とは
特定の個人に永久に紐づき、譲渡・売却が不可能なNFTの一種。学歴・資格・医療記録など「本人の属性」に適しており、個人主権型のデジタルアイデンティティの基盤となります。ERC-5192として標準化されています。
応用例
医療保険の個別最適化
個人の健診データを一定期間保険会社に提供することで、実態に即した保険料の算出や、健康増進インセンティブの設計が可能になります。個人は見返りとしてトークン報酬や保険料割引を得られます。
製薬会社・大学の研究データ収集
患者が同意した範囲・期間内でのみデータをレンタル提供。研究機関は真正性が保証されたデータを適法に入手でき、患者は研究への貢献を収益化できます。臨床試験のリクルートにも活用できます。
医療費の可視化と財政最適化
自治体や企業健保が市民・従業員の健診データを匿名化・集計分析するためのデータ提供の仕組みとして活用。集団レベルの健康状態の把握と、医療費の予測・予防施策の立案に役立てられます。
資格・学歴証明のデジタル化(他分野への応用)
同じSBT技術を使い、卒業証書・資格証明書・職歴証明書などをデジタル化。雇用主への証明書提出時に原本を保持したまま閲覧権限のみを一時付与するユースケースに応用できます。
プロジェクト情報
カテゴリ
研究 / インフラ構築
年度
2023
分野
ブロックチェーン・HealthTech・データ主権
言語
Solidity / JavaScript
技術スタック
キーワード
ハイライト
- ✓ERC-4907(レンタル)とERC-5192(譲渡不可)を統合した独自NFT規格の実装
- ✓Blockcertsを活用したVerifiable Credential発行システムの構築
- ✓個人・保険会社・医療機関を繋ぐ三者間データ流通スマートコントラクトの開発
- ✓個人開発で実装まで完遂した実績
